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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(行ツ)123号 判決

上告人 千脇一

右訴訟代理人 野口敬二郎

原島康廣

被上告人 千葉地方法務局登記官 佐藤重元

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人野口敬二郎、同原島康廣の上告理由について

上告人が本件更正登記の取消を求める法律上の利益を有するものではなく本件訴は不適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないか又は独自の見解に基づいてこれを非難するものであつて、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤崎萬里 裁判官 団藤重光 裁判官 本山亨 裁判官 戸田弘 裁判官 中村治朗)

上告代理人野口敬二郎、同原島康廣の上告理由

原判決は、行政事件訴訟法第三条及び第九条の解釈適用を誤つた違法があり、該違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は取消さるべきものである。

一、原判決は、被上告人が昭和四三年一二月二六日千葉県千葉市平山町七六番一山林四、二八六平方米の土地について、その地積の表示を四、二八六平方米から九、二九〇平方米に更正するために行つた土地地積更正登記について、該地積更正登記は当該土地に隣接する土地の所有者等の権利義務に直接影響を及ぼす効力を有しないものと解するのが相当であつて、抗告訴訟の対象となる行政処分には該当しないというべきであるのみならず、本件土地自体につき何らの権利も有しない上告人は本件構成登記の取消しを求める法律上の利益を有しないものといわなければならない、として上告人の本訴請求を不適法として却下した第一審判決を相当として、上告人の控訴を棄却したのであるが、被上告人の行つた右土地地積更正登記は、行政事件訴訟法第三条の規定する抗告訴訟の対象となる行政処分であるのみならず、上告人は右土地地積更正登記の取消しを求める法律上の利益を有しているので、同法第九条の規定する原告適格をも有しているのである。

二、即ち

(一) 不動産登記制度は、不動産取引の安全を図るため、不動産の物理的状態を登記簿に公示し且つ、これについての権利変動を登記簿に記載して公示する制度であるところから、不動産である土地建物を特定するための手段として不動産登記法は、地図及び建物所在図を登記所に備え付けさせる一方、登記簿上に実体関係を常に正確に反映させる必要がある関係上、登記簿の記載が実体関係に符合していない場合には、これを是正させるための手続として変更登記ならびに更正登記の制度を定めているのである。

(二) そして、更正登記については、当初の登記手続に錯誤または遺漏があつて登記簿上の記載が実体関係と一致しない場合に、これを補正するために為すべきものとしたうえ、登記簿の表題部に記載された所有者または所有権の登記名義人が土地の地積の更正登記申請を為すには、申請書に更正後の土地地積の測量図を添付すべきものとしているため、登記実務においては、土地地積更正登記申請書に更正後の地積測量図と、右地積が申請人の所有地内の地積であつて隣地所有者の土地を取り込んでいないことを証明し且つ、実体関係と符合していることを証明するため『隣地所有者の承諾書』と、隣地所有者が真実申請人添付の測量図に基づいて土地地積更正登記が為されることを承諾していることを証明させるため右承諾書を作成した隣地所有者の印鑑証明書を添付させているため、土地地積更正登記を得た土地の地積ならびに隣地との境界については、その正確性に関し高度の信頼を国民より得ているのである。

(三) そして、右更正登記後右承諾書及び印鑑証明書は測量図とともに土地地積更正登記申請書の付属書類として保管される一方、同書類の閲覧を希望する者の閲覧に供しているのである。

三、上告人の所有にかかる千葉県千葉市平山町七四番一山林三、〇七八平方米の内七九七・五三三平方米と同所同番二山林一、四一八平方米の内一、三八三・九二八七平方米は、被上告人が昭和四三年一二月二六日に行つた本件土地地積更正登記により不動産登記簿上に第三者の所有(本件土地地積更正登記を行つた当時は申請人の訴外中沢章造、同清水時弥の共有)にかかる千葉県千葉市平山町七六番一ならびに、これに隣接する同所同番二の土地に属する旨公示されるに至つたのに加え、同中沢章造と同清水時弥が被上告人に行つた土地地積更正登記申請の申請書に添付された更正後の測量図と上告人を作成名義人とする偽造の「境界確認書」ならびに他に使用すると詐つて上告人の次男訴外千脇浩より騙し取つて添付した上告人の印鑑証明書が同訴外人らの土地地積更正登記申請書の付属書類として保管されたうえ、閲覧を希望する者の閲覧に供される結果、上告人の所有にかかる前記千葉市平山町七四番一の山林の一部と同所同番二の山林の一部が、土地地積更正登記を得た同所七六番一ならびにこれに隣接する同所七六番二の土地の一部に属し且つ、これら土地と、上告人所有の前記土地との境界が右申請書に添付された測量図に境界として表示された地点であることについて、一般国民より高度の信頼を得ることとなつたため、上告人は、その所有にかかる前記土地の所有権の帰属について常に不利益な取り扱いをうけ、重大な損害を蒙つているのである。

四、被上告人の行つた本件土地地積更正登記は

(一) 被上告人が法律により優越的地位を認められた行政権の主体として行つた行為であるから公権力の行使に該当するため、それが違法に為された場合には、違法状態の存続することにより不利益を蒙る者にその違法状態の排除を求める利益があるので、本件土地地積更正登記は行政事件訴訟法第九条の規定する抗告訴訟の対象となる行政処分に該当するのである。

(二) その結果が存続することにより、前記の如く上告人の所有にかかる千葉市平山町七四番一の山林の一部と同所同番二の山林の一部が第三者の所有にかかる同所七六番一山林九、二九〇平方米ならびに同所同番二山林一、二〇一平方米の一部に属することならびに、同所七四番一及び同所同番二の土地と同所七六番一及び同所同番二の土地との境界が本件土地地積更正登記申請書に添付された測量図に境界として表示されている地点であることについて高度な信頼を得ているため、上告人は、その所有にかかる同所七四番一の山林の一部七九七・五三三平方米と同所同番二の山林の一部一、三八三・九二八七平方米の所有権の帰属について常に不利益な取り扱いをうけるため、本件土地地積更正登記により直接且つ、重大な損害を蒙つているので、上告人は、同登記によつて法的利益の侵害をうけた者として行政事件訴訟法第九条の原告適格を有しているのである。

よつて、上告人は、上告状の上告の趣旨記載の判決を求めるため本件上告に及んだ次第です。

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